前回は、自然とのど仏が下がるような発声のフォームについて述べたが、今日はこれをもう少し掘り下げてみたい。
この前は「い」を取り上げたので、今日は「え」を例にとろう。それにはわけがある。
「い」も「え」も、これをはっきり言おうとすると口角が左右に強く引っ張られる。そうなると、自然とのど仏の位置も上がって、のどが狭まる。つまり、「い」や「え」はのど声になりやすいのだ。「い」や「え」の文字を見たり、頭でその音を考えただけでも、条件反射的にのどが緊張して閉じ気味になってしまう。典型的な「カナ縛り」だ。
これを解決する手段として、逆説的だが、まずこの極端に緊張した「え」を作ってみよう。口角が左右に引かれ、やや後ろにも引かれるくらいの状態を作る。「えーっ? うそー」などと思いっきり疑っているときの感じだ。声はまだ出さなくてもいい。
そしてそのまま、口角を引っ張っている筋肉をすべて、ゆっくりと弛緩していこう。そして、かろうじて口の形は「え」の形骸を残しながら、まだ曖昧母音にはならない限度まで弛緩する。首や肩に力が入っていれば、それも弛緩する。
このプロセスを何度か繰り返してみるとよい。「え」の緊張状態を作ってから弛緩させる過程で、どの筋肉が使われているかを実感するのが目的だ。
たぶんどの筋肉に力が入っているかは自分でもわかると思うが、どれも、のど声を助長する無駄な力だと思ってよい。カナ縛りを解くためには、まずこれらの筋肉をすべて弛緩させることを意識しよう。
次は、無声音でささやくように軽く息の音を出しながら、同じく「え」の緊張から弛緩状態への変化をやってみる。今度は舌の動きに特に注意しよう。緊張状態のときは、舌が前に突き出ているが、緊張が解けるとやや後ろに落ち着く。
弛緩状態を作ったときに、息の流れがどう変化するかも感じてほしい。息を前に出そうとするとどうしても緊張するので、それに使っている筋肉も弛緩させるよう気をつける。こうすると、ささやくような摩擦音が、弛緩するにつれてより静かになり、息は流れていてもほぼ無音になるはずだ。
できたら、今度はこの緊張と弛緩の対比練習を、前回の「い」の母音でもやってみよう。
「い」でも「え」でも、この弛緩した「脱カナ縛り」状態が声を出す前のデフォルトのフォームになるよう練習するとよい。この練習をしないと、デフォルトがカナ縛りのフォームのままなので、あとで言葉を発音する段になると、緊張した堅い声しか出ないのだ。
さて、この弛緩した「脱カナ縛り」のフォームから、次は実際に声を出すのだが、その前にもう1つ「支え」という大事なステップが残っている。それは次回にまわそう。
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