今回は、声を出す準備の柱ともいえる「支え」について考察する。
クラシックの声楽をやっている人は知っていると思うが、「支え」というのは、歌う際の発声のフォームを腹筋や背筋を使ってしっかり保持する重要なテクニックを指す。これがないと、やせ細って説得力のない声にしかならないのだ。
ところが、英語の発声については、あまり「支え」が重視されていないというか、ほとんど話題にすら上っていない。ここに一つ、これまでの英語発声論の不備があるように思う。
僕にいわせれば、「支え」のない声では英語らしい響きがしない、というくらいこれは大切なテクニックなのだ。しかし、声楽でも「支え」が何かという明確な定義はむずかしいらしく、説はいろいろある。僕も自分なりにいろいろ発声や「支え」を考えて英語朗読を実践してきたが、その結果、体感的にはこうすればいいという結論がほぼ固まってきた。
端的にいうと、声楽関係でよくいわれる「声をお腹から出す」とか、「腹筋を使って支える」とか、「横隔膜を意識して」とかいうアドバイスは、実際にはまったくといっていいほど役に立たない。もちろん腹筋は使うし、腹式呼吸も使うが、それは正しい発声をすると結果的にそうなるに過ぎず、お腹を使ったり腹式呼吸をすれば必ず正しい発声になるわけではないのだ。要するに、順序が逆なのである。カナ縛りが解けないままでは、いくら腹式呼吸などをやっても進歩はない。
支えの本当のポイントはお腹ではなく、口腔の天井(口蓋)を吊り上げるようにし、口内のスペースを広く確保することにある、と僕は思っている。そうしないとカナ縛りが解けないからだ。この支えができるようになると、自然にのど仏も下がるし、腹筋もうまく作用する状態になる。しかも、下あごや舌や首回りの筋肉は弛緩したままの状態が保たれる。
つまり、正しい発声のフォームの「支え」は下から持ち上げるイメージではなく、上から吊り上げて支えるイメージなのだ。
前にも説明した「脱カナ縛りの準備フォーム」の練習がある程度できていれば、そのフォームにこの上から吊り上げるような「支え」を付け加えるのは比較的簡単だ。次回はこれを、iの短母音で練習してみよう。
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