いよいよ声を出す核心の部分になるが、前回からだいぶ間が空いてしまったのは、僕自身にちょっと迷いがあったからだ。これまで述べた準備段階はそれでよいのだが、実際に声を出すときの体感をうまく表現しあぐねたのである。
発声というのはスキージャンプにちょっと似ているところがあって、踏み切りが成否を大きく左右する。踏み切りを失敗すると、後でどうあがいても距離は出ない。
しかしそれ以前に意識してほしいのは、発声のジャンプ台が実は1つではない、という点だ。残念ながらたいていの日本人は、のどに力を入れてカナ縛りに向かうジャンプ台しか目に入らない。だから、せっかく弛緩して準備を整えても、ついこのカナ縛り方向のゲートに入ってしまうので、結局今までと同じ発声を繰り返してしまう。そうならないためには、今まで見えていなかった別方向のゲートを探し出して、そっちへ滑ってみることが大切なのだ。
せっかく下あごや首やのどの筋肉をすべて弛緩させ、上あごと頭部の筋肉で支えを作って発声の滑り出しのポジションを高く持ち上げるところまではきているのだから、あとはいちばん楽に滑れるゲートを見つけ出すだけだ。
僕がよく使うゲートは、位置としては目と鼻の付け根あたりで、顔面から2、3センチほどめり込んだくらいのところにある(もちろん体感の話だけど)。その辺りに息の通路が狭まるゲートを意識し、そこを息が通るときに振動が始まって声になる、という感覚だ。前回「第二の声帯」といったのは、このことを指している。あたかもこの場所が声帯であるかのように、ここから声が滑り出すからだ。
こうして声出しを練習するときは、ハミングから始めるのがよい。ただし、閉じた唇に息をぶつけるようなハミングは逆効果だ。これはまさに、カナ縛りジャンプ台へまっしぐらのルートだからだ。さっき述べたゲートを通った息は、そのあとはあくまで無指向性でなければならない。ハミングのmを自然と雲散霧消させるように意識しよう。mの子音がどこで作られるのか自分でもわからないくらいにボワッとしたmでハミングすることだ。間違っても「ンー」と力んではいけない。ボワッとしたmのあとに、いつでも好きな母音を付け加えられるような、力みのないハミングを目指そう。そして同時に、声の滑り出しのポジションは常にしっかりと意識しておく。
このだらんとしたハミング体感に慣れるため、ひまを見て好きな歌をこのハミングで歌ってみるといいだろう。
実は、声を滑り出させる上できわめて有効なゲートが少なくとももう1つあって、ポジションはさらに頭の後ろのほうで、発声のメカニズムも息の流れもまったく上記とは別ものになるのだが、これはまだ僕自身言葉でうまく説明できないので、今はとりあえずあまり触れないでおく(これを説明しようとして迷ったので、前回からだいぶ間が空いてしまったのだ)。
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