前回述べた「左右方向への波動」のイメージをさらに発展させると、声の「翼」を広げる、という表現のほうがよりしっくりくるかもしれない。といっても、鳥のように上下に羽ばたく翼というよりは、滑空するトビウオの羽根のような、あるいはグライダーの翼のような感じだ。声を左右に向かって広げ、波動面をなるべく大きく確保するよう意識する。声で空気の翼を形づくるイメージだ。翼の根元は、鼻の付け根から左右の頬骨、そして耳の穴に続く線だろうか。ここに想像上のスリットを設けて、そこから声を引き出し、翼のように左右に広げるさまを思い描いてみよう。
グライダーは飛行機と違って、自分で推進力を作らない。それが英語的発声の大きなポイントでもある。お腹から息をポンプのように送り出して推力を作ろう、などと考えると無理な力が入るだけだ(英語は腹式呼吸でしゃべる、と思い込んでいる皆さん、ゴメンナサイ)。むしろ、そこにある風をうまく利用して増幅しさえすれば、声は伸びやかに滑空してくれる。ただしそのためには、体をうまく使ってしっかりグライダーの骨組みを支えてやる必要があるのだ。
声が出始める場所はこのグライダーの前方だが、決して息を体の中から外に押し出して声を出すのではない。波動砲を先端からズドンと撃つのではなく、むしろ機体の前にある空気をグライダーの先端でとらえて中に取り込むときに空気が声になる、というイメージだ。空気を吸い込むときに声が出る、と考えてもよい。この息の流れが左右の翼を支えて揚力を生む。前からくる風を左右に分けて浮力に変えるようなイメージだ。こう考えれば、お腹やのどの無駄な力みも自然となくなるだろう。
さらに、両耳も翼の一部だと思って左右に広げるように意識するとよい。ただし主翼というよりは、2枚の尾翼といった位置づけだ。スキージャンプのレジェンド・葛西選手が、ジャンプの最中に手のひらをおもいきり開いて翼の先端のように使っているのを思い出して欲しい。僕たちもあんなふうに、両耳まで使って少しでも多く揚力を生み出そうと試みるべきなのだ。耳周りの筋肉の使い方を工夫して、耳の上端が普段より左右に大きく開くようにしてみよう。これは意外と効果があるので、おすすめだ。耳を2枚の尾翼のように水平方向に開いて主翼を補助することで、翼の面積がさらに大きく広がり、揚力が増す。
普段僕たちが日本語でしゃべるときの両耳は、いわば蝶がとまっていて羽根が閉じられたような状態にあり、ここで前から来た波動が立ち消えとなる。これでは声の伸びが失われてしまう。逆に、蝶が羽根を広げるように両耳の先端の距離を離してみると、翼の総面積が広がって、声がより長く滑空できるようになるのだ。
こうしていろいろと工夫しながら声の翼を広げたままの状態を保つことが、すなわち「支え」なのである。このときに使う筋肉は上あごとそれより上の部分だけで、下あご以下の筋肉はまったく力を入れない。のど仏も下がっているはずだ。のど仏が上がっていたら、下あご以下のどこかに無理な力が入っているので、最初の弛緩練習に戻って脱力し直そう。
この一連の流れが、従来の日本語にはない(というかまったく違う)英語的な響きを生むメカニズムだ。あくまでイメージの話だが、面白い効果が得られるので、ぜひ試してみて欲しい。
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