ハナみちの入り口(口蓋帆)をリラックスさせる方法については前回説明したので、皆さんもすでにこれを弛緩させる方法は身に付けたものと仮定して話を進めよう。
皆さんがそこまでたどりついただけでも大きな収穫なのだが、実はその先にさらに重要なポイントが待ち受けている。
「ハナみち」は正式には上咽頭あるいは鼻咽腔などと呼ばれ、口蓋帆から鼻の付け根に向かうパイプ状のスペースを指す。簡単にいうと口腔と鼻腔をつなぐ通路だ。
その入り口にあたるのが口蓋帆で、ここはすでにご承知のとおり、息の通り具合を調節するバルブのような役割を果たす。日本語はこの部分をほとんど閉じたような状態で話すのが普通だが、英語を英語らしくしゃべるときはここを開いたままにしておくのが基本だ。ここまでは前回述べたとおりである。
さて、ハナみちに入った息は、その後しばらく前に進んでから鼻腔に入り、最終的には鼻の穴から出て行く。そこで質問だが、自分のハナみちと鼻腔の境目がどこにあるか、あなたは認識できるだろうか? おそらく考えたことすらない人が多いに違いない。しかし実は、このハナみちの出口(ハナみちと鼻腔の境)を自分で把握できるかどうかが、あなたの発音と発声にさらに重大な変化をもたらすのである。
なぜならこの「ハナみちの出口」こそが、英語的な発音・発声の決定打を生むからだ。
この「声をめぐるエッセイ」を書き始めてほぼ1年になるが、その間に僕は何度も「第二の声帯」あるいは「発声ポイント」とでもいうべきものが存在する、と書いてきた。そしてその場所は鼻の付け根あたりではないか、と推測してきた。
僕が実体験から存在を直感していたこの第二の声帯が、今ようやくその正体を現した。この「ハナみちの出口」こそが、第二の声帯だったのである。この箇所さえうまくコントロールできれば、英語の母音も子音も自由自在に操ることができる。この場所が、いわば英語の発音・発声の中枢なのだ。
この「ハナみちの出口」(とりあえずそう呼んでおくが、そのうちもっと気の利いた名前をつけるつもりだ)は、口蓋帆と同様に自分で意識的に開閉できる。次のような実験をしてみれば一目瞭然だろう。
まずは口を閉じて、普通に鼻で息を吸ったり吐いたりしてみよう。口蓋帆は常時リラックスさせておく。その状態で、鼻を通る息をブロックするように鼻の奥を狭めてみる。詰まった鼻で息を吸ったり吐いたりするときのように、息のパイプを閉じられる箇所があるはずだ。その位置は、前回開閉の仕方を覚えた口蓋帆よりもずっと前方にあることがおわかりだろうか?
そこがハナみちの出口なのである。
鼻で息を吐きながらクンクンいうときに鼻の奥が狭まったり開いたりするが、それと同じ場所、といえばわかりやすいだろうか。
ここをバルブないし弁として使って息をコントロールすることで、英語のほぼあらゆる音をうまく操ることが可能になるのだ(それについては次回以降に譲ることにする)。ただしその前提条件として、口蓋帆をリラックスさせ、ハナみちの入り口を開いたままにしておくことが必要だ。日本語を話すときのようにハナみちの入り口が狭く閉じられていると、ハナみちの中まで十分に息が到達せず、出口で効果的な息のコントロールができなくなってしまうからだ。
宿題として、次回までにハナみちの出口のありかをしっかりと自分で意識できるようにしておいてほしい。