前回ちょっと補足したいと書いたことについて、取り上げておこう。
「鼻の付け根を広げて遮蔽膜を引っ込める」のと、「鼻腔弁を閉じる」のをセットでやる必要がある、という点だ。
今回は図をいくつか用意したので、それに沿って話を進めることにする。
まず声帯の構造を簡単にさらっておこう。
声帯は気管の入口にある。気管が指輪ぐらいの太さだとすると、声帯はその直径に沿って張られた2本の白いじん帯みたいな形をしている。こんな感じだ。
声帯の左右には膜が張っていて、息は通さない。声を出すときは、左の図のように声帯は閉じたままだが、間にわずかな隙間を作って、そこを息が通るときに声帯がふるえて音が出る。呼吸時には、右の図のように声帯は開いている。
しっかりした声を出すには、声帯の間隔が最適になるよう、意識的に調節することが求められる。
鼻腔弁というのは、この声帯がのどではなくあたかも鼻の奥にあるかのように自分に思い込ませる、いわば自己催眠モデルである。そうやって自分をだましたほうが、かえって声帯をうまくコントロールできるのだ。これは、声帯をつかさどる半回神経が異常なまでに遠回りな配線になっているので位置覚に狂いが生じており、それを補正してやらないと声帯に指令がうまく伝わらないからだ、と僕は考えている。
ともかく、この鼻の奥にある架空の鼻腔弁を絶妙な閉じ具合いでコントロールしてやることが、第1のポイントである。
それだけならまだ話は簡単なのだが、もうひとつやっかいなものがある。披裂喉頭蓋ひだ、すなわち声帯に覆い被さる遮蔽膜だ。この膜は声帯より1センチかそこら上のあたりに出没する。これが出っ張らないのが理想なのだが、あいにく日本語をしゃべるときはこれが大きな顔をしてのさばっているのだ。左が理想形、右が残念形である。
3Dでみるとこんな感じだ。(ペイント3DというWindows10のアクセサリソフトで描いてみた。ぎこちないが、少なくとも直観的ではあると思う)
英語は左のように話すのが普通なのに対し、日本語では右が普通なのだ。だから声の質が違って聞こえるのである。
さらにいうなら、日本語では声帯のコントロールが英語よりも弱い。つまり、声帯の締まりがゆるいのだと僕は見ている。なぜかというと、日本語では鼻腔弁を使っていないからだ。鼻の奥で声帯を精密にコントロールするすべを知らないと、英語らしい音には近づきにくい。
むろん、のどで声帯をコントロールするのも不可能ではないし、事実僕たち日本人は曲がりなりにも声を使ってはいるのだが、僕たちが考えるほどストレートな制御ではなく、むしろマジックハンドを介して操作するような非効率さとまだるっこしさがあり、それが音質や音程にも影響する。それに対し、鼻腔弁を使うとまるで素手で操作しているようにダイレクトな手ごたえが返ってくるのだ。
また、鼻腔弁を使いこなせると、その近傍にある遮蔽膜のコントロールも容易になる。鼻の付け根を開くことで、遮蔽膜を引っ込めたままにできるのだ。ただ、両者はきわめて距離が近いので混同しやすく、鼻腔弁を閉じながら遮蔽膜を開くのは結構難しい。声を出す=遮蔽膜が出動する、という図式に陥りがちなのだ。
意識して使い分けられるようになるまでには多少の練習と忍耐と慣れが必要だろう。うまい練習方法がないか探っているが、思いついたらまた報告する。
頭蓋骨と鼻腔弁の位置関係を3Dモデル化してみたので、参考にしてほしい。ただし、鼻腔弁はあくまで仮想的な存在だということはお忘れなく。
鼻腔弁の閉じ方を修得し、同時に鼻の付け根を開くすべを知れば、英語の発声と発音の大元はマスターできるはずだ。